京都らしい趣と“ほんまもん”を感じられる空間

株式会社中嶋象嵌代表取締役 中嶋 優子

京都らしい趣と“ほんまもん”を感じられる空間

 金属や木材など表面に異なる材料をはめこむ工芸技術「象嵌」は、1200年以上の歴史があります。その中でも、地金に超絶技巧で布目を切り、その溝に金銀をはめこんで仕上げるのが「京象嵌」です。中嶋象嵌では、「普段着からよそゆきまで、身につけやすく長く愛されるものを」と、時代に合わせたオリジナルの作品づくりを続けています。女性の感性を生かしながら、父から引き継いだ象嵌の魅力を伝える社長、中嶋 優子さんにお話を伺いました。

非日常と日常が交錯する、嵐山らしい場所に

 嵯峨野で生まれ育った私にとって、嵐山は日常生活の場であり、親しい友人との憩いの場。子どもの頃は、夏なら桂川で水遊びをしたり、花火をしたり。観光地というイメージはなかったんですよ。ところが、急速に土産物店などが増えて観光地化してしまって、かつての静けさを懐かしく思いながら、ここで商いをする立場として、どう向き合うべきかと考えていました。嵐山昇龍苑に出店しないかというお話をいただいたとき、共感したのが「老舗は楽し」というコンセプトです。趣のある建物の中で、「京都の“ほんまもん”を体験していただけるなら」と。観光で訪れる方だけでなく、地元の皆さんにもお散歩がてらに立ち寄っていただき、象嵌の魅力に触れていただける場所になればと考えたのです。

ここでしか生まれないご縁をつなぎたい

 お客様のなかには、リピーターの方もたくさんいらっしゃいます。各地の百貨店で実演販売をした際に出会った方が、京都に来られた際に立ち寄られることもしばしば。修学旅行の学生さんをはじめ、象嵌作り体験に参加された方も「次は別のものを作りたい」と、再訪してくださいます。引率の先生の間で口コミが広がって、体験に来られる学生さんも少なくありません。
特に思い出深いのは、東京で出会った30代の男性。教員だというその方は、身につけていたネクタイピンを見せながら、「中学生の頃、修学旅行の際に中嶋象嵌さんで作ったものです」とおっしゃったんです。一生物の思い出の品として、15年以上も大切に使ってくれていること、実演販売をしていることを知って訪ねてくれたことがとてもうれしくて。さらに、ご自身の生徒さんにも、修学旅行で象嵌作りを体験させたいと話してくださいました。嵐山だからこその出会いがあり、象嵌の魅力を多くの方に知っていただく場となっているなと実感しています。

普段着でもよそゆきでも使いやすいものを

 父の代から始まった中嶋象嵌ですが、時代は変化しています。大量生産・大量消費の時代から、少しの良いものを長く使いたいという方が増えましたよね。当店の製品は、全ての工程を自社工房で作っているので、オリジナルがほとんど。跡を継ぐ息子が、お客様からの声に耳を傾けながら、時代に合った新たな技法やデザインを考案しようと、試行錯誤してくれています。
伝統工芸品というと、気軽に身につけられないようなイメージがあるかもしれませんが、使っていただいてこそ価値があるというもの。例えば、地金を透かし彫りにしたり、金属でなくステンレスを使ったり。透かし彫りだと、お洋服の色に合わせて異なる印象を楽しめますし、軽量なので負担なく身につけられます。伝統にこだわった技術の高さを感じていただくことも大切ですが、私はよそゆきでも普段着でも使いやすく、長く愛されるものを提供したい。使う人の身になった物作りを大切にしています。

伝統の技×若い感性で進化する象嵌の魅力

 中嶋象嵌は、京都の伝統産業でディズニーキャラクターを表現した「ディズニー/京都伝統工芸シリーズ」に参加。桜などの金銀のモチーフをあしらったネックレスやバングルに、ミッキーやミニーのシルエットがさりげなくあしらわれているのがポイントです。
他にも、若い職人たちがアイデアを出し合い、新作をたくさんご用意しています。初めての方も、何度も足を運んでくださっている方も、ほんまもんの良いもの、お気に入りの一品を探しにきてください。

「〈ミッキー&ミニー〉ペンダント ドット」税込17,600円、「〈ミッキー&ミニー〉ペンダント 桜 総嵌(Mix)」税込25,300円、「〈ミッキー&ミニー〉デザインバングル」税込44,000円

まだ人通りの少ない早朝に、渡月橋から眺める景色。朝日に照らされてきらめく川面や山並みが美しく、一日が始まるエネルギーを感じています。