嵐山本来の魅力を再発信する拠点を目指して

株式会社西利代表取締役社長 平井誠一

嵐山本来の魅力を再発信する拠点を目指して

100余年続く漬物店の技を受け継ぎ、1940年に創業した西利。そのラインアップは、伝統的な京漬物はもちろん、ドレッシングやスープ、パンやスイーツなど多彩です。漬物作りのなかで得た発酵の技を生かして、現代の食生活でも取り入れやすく、健康維持につながる商品展開を続けてきました。一方で嵐山昇龍苑の発起人として、古くは平安貴族も魅了した風光明媚な嵐山を取り戻そうと模索してきた、四代目社長の平井 誠一さん。嵐山昇龍苑のこれからにかける思いを伺いました。

嵐山の“あるべき姿”を取り戻したい

 現在の嵐山昇龍苑が建っている場所は、もともと天龍寺の敷地の一部。これまでも、さまざまな店舗が建ち、入れ替わってきましたが、私の子ども時代を象徴するのがタレントショップでした。子どもの頃は楽しかったけれど、大人になるにつれ、本来の魅力と違う嵐山のイメージが定着してしまっていると感じるようになったんです。そもそも嵐山は、平安時代から多くの貴族が別荘を構えた、いわばリゾート地。京都有数の観光地でありながら、喧騒から離れた静寂のなかで、しっとりとした大人の時間を楽しめる場所だと思います。
自分なりに、「嵐山のあるべき姿とは何か」「本来の姿を取り戻すにはどうしたらいいか」と考えるなかで、構想し始めたのが嵐山昇龍苑でした。嵐山が変わり始めたのがこの場所なら、もう一度ここから変えられるのではないか。おこがましいかもしれませんが、そのための発信拠点をつくろうと考えたんです。

新しい京都、名店の味・技を体感できるギャラリー

 嵐山には、京都の市街地ほど老舗が多くありません。そこで打ち出したコンセプトが「老舗は楽しい」。ただ、特に「京都の老舗は敷居が高い」と感じている若い世代のお客様にとっても敷居は低く、のれんをくぐりやすい場所にしたくて。そこで目指したのが、3つの体感ができるギャラリーでした。
一つは「新しい京都」です。それぞれの老舗が本店ではできないチャレンジをすることで、新しい京都を感じていただけます。また、気軽に名店の味を体感できる、ものづくり体験によって老舗に受け継がれる技を体感できるというものです。
建物は、中庭を囲むように店舗が連なる長屋のような設計。回廊を活用して雨天でも全店を楽しめるよう配慮しています。一方で、運営は商店街方式なんですよ。外部のコンサルティング会社を介さず、各店舗のオーナーがフラットに話し合い重ね、運営を続けています。

漬物作りの技を生かした「ラブレ乳酸菌」シリーズ

 フルオープンで入りやすく円形に設計した入口付近には、千枚漬をはじめとする伝統的な京漬物を配し、奥に進みながらコンセプトの異なるさまざまな商品をご覧いただけるようディスプレイしています。近年、特におすすめしているのは、健康漬物「西利乳酸菌ラブレ」シリーズ。西利は、伝統的な漬物に含まれる希少なラブレ乳酸菌を、安定的に摂取できる京漬物の研究をしてきました。試行錯誤の末に、野菜の食物繊維とラブレ乳酸菌を一緒に摂取できる健康漬物を開発。漬物だけでなく、スープやドレッシングなど、毎日の食生活にラブレ乳酸菌を気軽に取り入れられる商品をシリーズ展開してきました。

「千枚漬」100g・税込795円、「京のあっさり漬(大根)」1/4割・税込411円、「ゆず味噌ごぼう」100g・税込540円

「乳酸発酵ラブレスープ」150g・税込432円、「乳酸発酵ドレッシング」140ml・648円

より幅広い世代のお客様にご満足いただける施設へ

嵐山昇龍苑がメインターゲットとしてきたのは、60〜70代の知的好奇心が高いお客様です。オープン後は、そうしたお客様に加え、海外からのお客様の間でも順調に認知度が上がり、ご満足いただいていたところへのコロナ禍でした。ただ、ネガティブな要素ばかりではありません。コロナ禍で、これまでより若いお客様が増えているという点はポジティブな要素。幅広い年齢層の方にとって、「老舗は楽しい」と思っていただける場に近づいていると感じています。
一方で、若いお客様にもご満足いただける商品開発には、さらに注力する必要があるでしょう。もちろん、コア世代のお客様にも戻ってきていただきたい。「老舗は楽しい」というコンセプトに加え、「文化と芸術が感じられる商業施設」という新たな目標を掲げ、全店で共にチャレンジを続けていますので、期待して足を運んでいただきたいですね。

嵐山の思い出というと、竹林を抜けて嵯峨野めぐりをするのが、学生時代の鉄板のデートコースでした(笑)。大人になってからは、また違う魅力も感じています。特に5〜6月の新緑シーズンに、渡月橋から川上を眺めるのが好きですね。また以前、桂川に屋形船を浮かべて、芸妓さんを招いてお月見をさせていただきました。秋の夜、山間の静寂に鼓と笛による一調一管の音色が響く様は格別。とても贅沢な時間でした。